財団法人 日本クリスチャンアカデミー
  
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機関紙「はなしあい」
 

第490号 2007年12月号


[主な内容]


巻頭言:《無》となられた神 ― 財団常任理事 中村 信博

 

*関東活動センター

   ●対話プログラム 
       「死と葬儀〜宗教はどう関わる」

*関西セミナーハウス活動センター

   ●2007年度第4回修学院キリスト教セミナー
       「カルヴァン 教会 国家」

   ●2007年度第5回開発教育セミナー
       「もう一つの日本を可能にするために〜格差社会をいかにのりこえるか〜」



*2007年度もみじまつり

*プログラム案内 他



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《無》となられた神
財団常任理事 中村 信博

  クリスマス停戦といえば、遠い外国のことと思われるかもしれない。ところが、すでに16世紀の日本で、敵同士であった戦国大名や兵士たちが、堺のイエズス会宣教師ルイス・フロイスのもとで、クリスマスのミサに同席していたことが知られている。どうやら彼らの目的は、喜びや和解にあったのではなく、異教の人びとに平穏な日本を演じて見せることにあったようだ。
 当初は短期決戦であろうと予測されたイラク戦争は、長期化し、泥沼化してしまい、その行方は未だにわからない。「内政の不干渉」 という国家間の原則が確立されたのは、カトリックとプロテスタントが激しく対立した17世紀の三十年戦争のあとに締結された「ウェストファリア条約」であった。しかし、人類は今日なお、その精神と遠い場所で苦悶している。
 力が正義とされ、戦争を抑止するのもまた戦力。預言者イザヤが特異な平和思想を訴えたのも今と変わらない時代であった。隣国北イスラエルの向こうには、古代オリエント史最強の世界帝国とされた、アッシリアの軍事的脅威が迫っていた。
 特異な平和思想というのは、イザヤが人間の争いの向こう側に、現実をはげしく批判する超越的な視点を獲得していたからに他ならない。
 《主は国々の争いを裁き、多くの民を戒められる。彼らは剣を打ち直して鋤とし/槍を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を上げず/もはや戦うことを学ばない。》
 (イザヤ書2章4節)
 これは、高邁な人類普遍の理想として、国連本部ビル向いの公園に刻まれている。ここで、主の裁きや戒めは、諸国民と自国民とを隔ててはいないことに改めて注意が必要であろう。「剣」は生命を奪うための道具であり、「槍」 は、王権誇示の象徴でもあった。イザヤは、敵を庄倒し支配する力を固持したままの平和が、不可能であることを訴えている。それらを保有する限り、自他の別なく、超越的次元においては、はげしく断罪され糾弾されるという。
 武器や権力の象徴が農具にと変じるために、イザヤはそれらを 「打ち直す」 ことが必要だと主張する。それは単純な冶金技術による加工ではない。ここではむしろ、徹底的な破壊と粉砕を意味する語が用いられている。「剣」 と「槍」は、そうして鋳直されてこそ、農具にと生まれ変わる。引用した『新共同訳』で反復する 「打ち直す」 は、原文では一度だけ。しかし、それはかつて偶像として鋳造された「金の子牛」が、モーセによって破壊された事態を想起させるだろう (申命記9章21節)。
 クリスマスを迎えて、飼い葉桶に眠る幼子のことに思いを馳せてみたい。
 神は、無防備な嬰児として、この世に人となられた。それは、《自分を無に》され、奴隷となられた神の姿でもあったという(フィリピ二章七節)。神ご自身が自らを粉砕されて、《無》となられたのだ。それは有から無への移行を示している。だから、名詞形の《無》=《ケノーシス》と呼ばれる神学には、自らを「打ち直」された神が動的に、そして、鮮やかに刻印されていた。
 幼子となられた神の《無》は、クリスマスのどんな意味を伝えているのだろうか。自らを打ち砕かれて飼い葉桶に眠る幼子には、無力な《いのち》への応答の責任が求められている。
 星空に響く幼子の寝息は、世界で最初のクリスマスを守った人びとに、神の信頼の歌となって響いたことだろう。
 この季節、平和を祈る者でありたい、と願っている。  (同志社女子大学学芸学部教授)

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